テッド・チャン『息吹』雑感
テッドチャンは、人間という生き物が知的に進化する可能性をもった存在であることを信じている。テッドチャンというのは、この作品集『息吹』に収められた作品や『あなたの人生の物語』を見てもそうだが、これまでの世界を一変させる新規的な概念やテクノロジー、知的体系を手にしたりインストールされたりしたことで、人間がまた新たな視座を獲得して知的に進化するという話を繰り返し書いている作家である。そこで人間が堕落したり破壊されたりせず、より明晰に世界を把握しなおし、ありていに言えば賢くなるというところがこの作家のSFにおける一番のフィクションかもしれず、人によっては甘いと捉える部分かもしれないが、そこが「らしい」ところなのだと思うし、感動的なところでもある。
ちなみに僕が一番好きだった短編はやはり、SF以外のどんなジャンルからも生まれ得ないであろうと思わせる表題作『息吹』だった。